アントラサイクリン系の薬物療法とがん治療関連心機能障害(CTRCD)

摘要

アントラサイクリン系抗がん剤による心毒性は蓄積性で用量依存性がある. 高齢者,小児,基礎心疾患の合併,心血管リスク(喫煙,高血圧,糖尿病,脂質異常症,肥満)の合併も心毒性の危険因子となる. 心機能低下を検出したら迅速に心保護薬(β遮断薬やレニン?アンジオテンシン系阻害薬)による治療を開始する. 生活習慣の欧米化と高齢化によって,循環器疾患とがんを合併する患者が増加している.近年,がんは治療法の進歩により,その寛解率や治癒率が格段に向上しているが，それに伴って薬剤による副作用が生命予後やQOLを左右する大きな要因となりっっある?特に,アントラサイクリン系抗がん剤のように心毒性が古くから知られた薬剤に加えて,様々な分子標的薬による心機能障害が問題となっている〔がん治療関連心機能障害(cancer therapeutics-related cardiac dysfunction ; CTRCD)].さらに, がん治療の既往が心血管病発症のリスク因子となりうることも指摘されている.がん患者の心血管系のモニタリングや合併症治療,さらに予防的介入を図るためには,臨床データとエビデンスの蓄積,発症メカニズムの基礎的検討を進めていく必要がある. ーのような状况のなか,がんと循環器の両者が重なった領域を扱う新しい臨床研究分野としての腫瘍循環器学(Onco-Cardiology/Cardio-Oncology) が全世界的に注目を集めつつある.