栄養療法

摘要

摂食障害は単なる精神疾患や身体疾患ではなく,人生や生活に深く関わる病気であり,治療は主に栄養療法,心理療法,薬物療法を症状に応じて組み合わせて施行されることが多い.低栄養?低体重による身体合併症は低血圧や徐脈,電解質異常,骨粗鬆症,肝機能障害や腎機能障害,汎血球減少,消化管機能の低下など多岐にわたり,重篤である場合は一刻も早く栄養療法を行わなければ命に関わることもある。さらに,これらほぼ全ての症状に対し,最も有効で根元的な治療法は,栄養改善や体重回復であり,栄養療法は非常に重要な役割を担っている。現代医療では,経管栄養や中心静脈栄養など,患者が経口摂取を拒否したとしても,栄養を補充する方法がいくつかあるため，低栄養を改善するのは一見容易に見える。しかし,低栄養状態の患者に対し栄養や体重の回復を図る際には,再栄養症候群という医学的合併症があり,正しい知識の下細心の注意を払って治療を 行わなければ，不整脈や心不全,痙攣,横紋 筋融解症など致死的な症状を併発することもまれではない3）。また,摂食障害患者は,やせ願 望や肥満恐怖が強く栄養回復に拒否的で,病識も乏しいため，どのような投与法であっても栄養療法を拒絶する可能性がある。さらに,経口摂取ができない場合,長期入院や頻度の高い通院などが必要となり,患者や患者家族の生活の質,心理社会面に強く影響し,病態の悪化にもつながる。栄養や体重回復に積極的ではない患者に対し,致死的な医学的合併症である再栄養症候群に気を付けながら,低栄養状態とそれに伴うさまざまな合併症に対処するには，どのように栄養療法を行えばよいのだろうか。本稿では,摂食障害における栄養療法と再栄養症候群の基本から,最新のエビデンスまで紹介したい。