コンクリート構造の設計と維持管理の連携

摘要

ものづくりの基本の1つは，良い材料を使って丁寧に作ることにある.丈夫で，用をなし，美しいものを作ろうとすると，いわゆる設計と維持管理が無意識のうちにバランスよく内在された作業のプロセスを自然とたどっている.つまり，設計と維持管理が表には登場せず，それが主張されることもない.しかし，良い材料を必要なだけ用意することができなかったり，性急に作業したりするようなことをすると，そこには設計と維持管理が頭をもたげてくる.よい材料をぜいたくに使うことができなくても，また，じっくり作り込むことができなくても，設計と維持管理において創意工夫をすることで，理想に近いものを作ることが可能となる.そのためには，設計と維持管理との関係性，つまり，連携が大変重要になる.現在の構造物の安全性確保の考え方を，きわめて簡単に言えば，次のようになる.まず，構造物というシステムを幾つかの部位?部材に分け，すべての部位?部材が破壊しないことで構造物の安全性が確保されると考える.そして最後に，構造物全体系に好ましくない形態の破壊が生じないことを確認する.個々の部位?部材の安全性の確認には，ある程度の余裕しろ(安全率)を加味している.また，実際の構造物の構成部材は並列なつながりであるが，これを直列のつながりと考えることで冗長性を確保している.それゆえ，設計では許容していない材料劣化が顕在化したとしても，構造物が直ちに壊れるわけではない.構造的な安心感はここにある.それでも，可能性は極めて低いものの，何らかの原因で破壊という現象が起きることがある.技術者は，そういうことを当然知っている.つまり，我々は今，矛盾した世界の中で悪戦苦闘している.この矛盾を解くためには，設計と維持管理にかかわる技術の連携と人の連携が必要になる.本稿では，設計と維持管理の連携の現状を把握したうえで，今後の論点について整理してみたい.