襤褸の美しさに

摘要

もう14年も前のことだが，とある日，勤め先の短大から表参道駅までの帰り道，路地の奥まった所に小さなフォトギャラリーを見つけた。そのギャラリ一で,1992年から12年間にわたり東ヨーロッパの伝統的な生活をしている人々を撮影し,19世紀の古典的写真技法によりプリントして発表している若い写真家の作品群とであった。馬車が行く山間の道，羊飼いや家族，祈る老父の写真など，そこには私たちの当時の12年間と同じ時を刻hだということが信じられない日々の暮らしの空間があった。自然のなかでゆっくりと生活し，家族というものを実感できる温かさと静けさがそこにはあった。あくせくした私の日常に，心深く沈殿していった。