騒音障害防止のためのガイドラインの功績と課題

摘要

騒音性難聴は労働環境における健康障害の原因として産業医学上の大きな問題ではあったが，生命に関わるものではなく,作業遂行には大きな影響がないということで，我が国では1947年，労働基準法施行規則35条12号「強烈な騒音を発する場所における業務による耳の疾病」で業務上疾病に取り上げられるまであまり重要視されていなかった。長きに渡り職業上の曝露は当たり前と考えられる文化があり，耳が聞こえなくなって一人前，という捉え方をする労働者も少なくなかったと思われる。1950～1960年代，各企業にオージオメータや騒音計が普及し，産業医らによる騒音性難聴の研究が活発に行われ，難聴の診断や騒音管理，補償などについて学術的な理解が進hだ。その後，1985年に労災認定の基準が定められ，1992年に「騒音障害防止のためのガイドライン（以下，ガイドライン）」が出される。ガイドラインでは騒音作業が定義され，そのような作業場を有する事業者が実施すべき対応を具体的に示した。これにより我が国の騒音対策は大企業を中心に進み，近年では騒音による労災認定件数も減少傾向にある。しかし中小規模事業場における現状は大きく変ねっていないことが近年の調査にて示唆され,今後への課題が残る。本編ではガイドラインにより定められた項目を概観し，欧米の騒音管理の手法に触れながらガイドラインに沿った管理で残る課題を考察したい。