「一球入魂から一粒入魂へ」

摘要

40年前，ランドセルから詰襟の学生服に替えて中学 校へ登校を始め，何か部活動に人部しようと思い，強 豪で人気が高かったテニス部に入部した。新入部員は 30名近くいたと記憶しているが，3年生の時には数名 しか残らなかった。当たり前ではあるが強豪ゆえに練 習は厳しく，特に監督の指導は今では考えられないも のであり，耐え切れずに続々とリ夕イヤしたのである。 1時間以上もテニスコ一ト2面の外周をうさぎ跳び, ホウキの柄でお尻を殴られる等，上品そうなテニスの イメ-ジとはかけ離れたもので，自分も一緒に辞めて しまおう，逃げ出そうという気に何度もなった。何故 殴られるのか？怒られるのか？監督の人間性を疑い， 嫌で嫌で堪らなかった。しかしある時に，監督が声を 高らげ，腕を振り上げるのは，負けたとかラインアウ トしたときではなく，試合に勝ったとしても気が抜け たような行動や，ボールを打ち返したときであると解 った。つまり魂を込めて打ち込む，練習する，試合を する。行動1つ1つに集中し真剣にやれということだ。 声を出しペアと連携をとり球を追い，1球1球「魂」 を込めて打ち返す。それが解ってからは監督の人間性 ではなく，自分の意識の弱さを都度反省し厳しい練習 も乗り越え，3年間の活動が終わった。最後に監督よ り一人一人に違うコメントが書かれたボールを頂い た。自分のボールには「一球入魂」と書かれていた。 鬼のような監督であったがボールを渡すとき涙が流れ ていたのが衝撃的であった。そhな指導のお陰で精神 的に強くなったためか，高校，大学では多少のことは 苦にならず，耐えに耐えるようなことがどちらかとい うと得意分野であった。例えば短距離よりも長距離， 24Hマラソン，仕送りなし，深夜の運送会社での仕分 けアルバイトなどである。社会人となってからは1つ 1つの業務内容が新鮮で自分なりに真剣に取り組hで きたつもりであるが，30年近く勤務した今はどうだろ う？この随想を執筆する機会が良い振り返りとなった。今では業務内容も増え，部下も多くなり，環境や 法律も変化した。真剣度を多少削らないと仕事が回ら ない。回すことを優先し過ぎ真剣度が薄れているとき も多いと感じている。「魂を込めた開発をしているか？ させているか？」「1バッチ1バッチに魂を込めて生 産しているか？させているか？」「魂を込めて若手を 育てているか？」自問自答すると反省することが多い。