学術誌の危機を乗り越えるために― 日本学術会議が提言する新しい学術メディアの構想―

摘要

新年号から景気の悪い話で恐縮ですが，今，世界中の大学図書館で起きている問題があります．冊子形態のころから引き続く学術出版の寡占化や価格上昇によって，図書館が電子ジャーナルを買い支えられなくなっています．大学にもよりますが，たとえば国立大学の場合，商業出版社大手のElsevier，Wiley-Blackwell，Springer3社のそれぞれ1000タイトルを優に超えるようなパッケージ購入で図書予算の約6割が取られてしまいます。残りをほかの商業出版社パッケージないしは大手欧米学会論文誌のパッケージの購入に当て，さらに残ったところで，単タイトルの論文誌が購入されます．その総額は国立大学だけでも年間121億円！ （図1）.化学者からみると，化学以外のタイトルが多いパッケージにかなりの予算が取られていることがおわかりいただけると思います．米国化学会（ACS）のパッケージですら全体からみると2 ％ です．そして，ここからがさらに問題です。先の大手パッケージが毎年5～10％ の値上げを行うので，図書館の予算全体が圧迫され，残りの論文誌の中から「足切り」論文誌の選定が始まります．当然，図書館の予算自体が減らされている大学はさらに締め付けられます．最近の各大学の図書委員会では，「何を新たに購読するか」ではなく，「何を止めるか」で労が費やされることがほとhどだと聞きます。