第一胃微生物からみたゥシの疾病と栄養

摘要

ゥシに代表される反芻家畜は巨大な前胃発酵槽'ルーメンを有し，そこに共生する微生物 の作用を通して植物繊維質を分解発酵し，短鎖脂肪酸など家畜のエネルギー源を供給する.また増殖し た微生物は下部消化管へ流下し，家畜のタンパク源となる.動物と消化管微生物の間に見られるこの関 係は，自然界の相利共生を代表するもののひとつと言える.ルーメンの微生物相は比較的安定で共生関 係は良好であるが.近年の高生産性志向から穀物を主体とする飼養体系の導入により.生態系の攪乱ゃ 破綻が生じやすくなつている.時として異常発酵とそれに付随した代謝障害が生じるが'.その代表的な ものが慢性の鼓脹症およびアシドーシスと言える.慢性のこれらは，長期の食欲不振や成長、生産の低 下を導くため，経済的な損失が大きい.鼓脹症ゃアシドーシスの発症は，特定のルーメン微生物の異常 増殖や消失を契機としており.治癒時にはそれらの回復が見られる.したがってルーメン微生物相の安 定化が予防の第一要因である.また微生物相制御法によってはこれら疾病予防だけでなく .家畜の栄養 改善やストレス緩和.環境負荷低減など.副次的な効果が期待できる場合がある.本稿では，ゥシの代 謝障害と栄養制御についてルーメン微生物学の観点から記述する.