沿岸環境の再生?創出と豊かな漁業生産

摘要

内湾域における底層の貧酸桌化は底牛性魚介類 の生息を困難にし，漁業生産に深刻な影響を与え ている。これまで貧酸素水塊の拡大を閉鎖性海域 特有の流入負荷増大に伴う富栄養化現象ととらえ， COD,総窒素(TN)，総リン(TP)の環境基準を定め， その達成のために陸域における水質総量規制が 1980年から35年以上にわたって実施されてきた。 しかし，伊勢?三河湾では贫酸素水塊の発生頻度 や規模において減少傾向はみられず，逆に栄養塩 類の低下により，さまざまな漁業生産に悪影響を 及ぼしている可能性が指摘されている。それは 貧酸素化の主因が流入負荷の増大だけではなぐ 高い水質浄化機能を有する干潟?浅場，藻場の喪 失にあったからである。環境省では，水生生物 の生息?再生産に対して直接的な影響を判断でき る指標として，底層溶存酸素量（以下，底層DO) を新たな環境基準として導人することを決定した (平成28年3月30日「水質汚濁に係る環境基準につ いての?部を改正する件」平成28年3月環境省告 示第37号)。今回の底層DOの環境基準設定に際し， その達成対策として従来の水質汚濁防止対策だけ でなく，藻場?干潟の造成や深掘り跡の埋め戻し など，場の修復対策も組み合わせていくことが示 され(平成27年12月7日「水質汚濁に係る生活環境 の保全に関する環境基準の見直しについて（答申)」），内湾における環境管理行政は転換点をむか えようとしている。しかし，場の修復を有効なも のとするにはそこに生息する多様な生物の生息， 再生産を確保するための一定の栄養塩環境を保持 することが必須である。