成体ホヤの中枢神経系

摘要

ホヤは原索動物門にの用語は現在では死語となり，厳密には脊索動物に属す無脊椎動物という表現が一般的となっている）の一亜門である尾索類（別名被囊類：身体が動物性のセルロースを含む被囊という物質に覆われている）の一網を占める動物群である。幼生はオタマジャクシ型をしており，脊索や背側神経索をもつなどの脊椎動物の原型的特徴を示すが，成体は脊索や神経索を失い，付着生活に適応した体制に変化している。オタマジャクシ幼生は遊泳運動をするため，発達した感覚器官（視覚器や平衡感覚器など）とコンパクトな中枢神経系をもち，その中枢神経系の発生中には脊椎動物の中枢神経系が発生する際に発現する遺伝子と相同な遺伝子が発現することが知られている~(1))が，成体へと変態する際にこれらを退化させ，単純な中枢神経系をもつようになる。昨年筆者は本誌にホヤ成体の感覚器系に関する総説を寄稿する機会を得たので，今年はホヤ成体の中枢神経系に関して，現在得られている知見を解説してみたい。ホヤ成体の体制を簡単に表現すれば，濾過捕食に適した鰓囊を袋で覆い，その袋の前に水の入口（入水管），後ろに出口（出水管）をつけた格好をしている… ということになる。中枢神経系はにの入水管と出水管の間に，表皮と囲鯉腔上皮（呼吸と濾過捕食のための器官である鰓囊の周囲を取り囲む上皮）に挟まれて存在している。