中性子放射化分析一最も信頼出来る元素分析法

摘要

中性子放射化分析は古くて新しい元素分析法である。タイトルにある「最も信頼出来る元素分析法」という表現に対しては分析化学研究者、特に他の分析法に馴染hでおられる方からは異論が聞こえてきそうであるが、分析対象を固体試料に限定すれば、決してオーバーな表現ではない。中性子放射化分析を古くて新しい分析法と表現したが、その分析法としての利用の始まりは1930年代まで遡る。世界の多くの国々で研究用原子炉が建設された1950 年代には分析法としてほぼ確立し、195 0～1960年代には分析法としての検討は一通り終わった。1970年代以降は応用研究（中性子放射化分析法を利用した研究）が主流となった。特に放射線計測技術の向上によってエネルギー分解能に優れたGe半導体検出器が開発され、普及すると、中性子放射化分析は分析化学者の手から離れ、多くの利用者（エンドユーザー）の手に渡った。Ge半導体検出器が普及する前の中性子放射化分析では測定しようとする目的元素（核種）を分離し、精製するという化学操作が必須であった。（このような中性子放射化分析を放射化学的中性子放射化分析と呼ぶ。）Ge半導体検出器の出現によって放射性核種が複数共存する状態でも個別に検出する事が可能になり、放射化後に生じる放射性核種の放射化学的分離精製操作を大幅に省略できるか、あるいは全く必要としない時代になった。（機器に大きく依存する中性子放射化分析という意味でこのような手法を機器中性子放射化分析法と呼ぶ。）分析の為のプローブとして用いる中性子は透過能が高く、シグナルとして発せられるガンマ線も特殊な場合を除けば中性子同様、物質中での透過能が高い。定量値を求める過程については他書にゆずるが、中性子放射化分析は分析法で不確定性が入る諸要因を最大限排除出来ることから、タイトルで述べた最も信頼出来る分析法と断定しても納得して頂けるものと思う。同法を古くて新しい分析法としたうちの「新しい分析法」という点について補足すれば、これが本項の主題でもあるのだが、現在でも同法は実に様々な分野で利用され、多くのよりモダンな最先端機器分析法と互して大いに活躍している現実がある。本稿を読hで、まだ中性子放射化分析法を利用した経験のない方が少しでも同法に興味を持って頂き、さらには同法を試みてみようと思っていただければ筆者として望外の喜びである。