鉄と鋼の結晶構造決定: （その1）ウェストグレンの生涯とβ鉄論争

摘要

現在，人類は鉄に依存した文明を築いており，鉄がなければ生存することができないといっても過言ではない．その鉄の結晶構造が，スウェーデンの科学者ウェストグレン（Arne Fredirik Westgren: 1889～1975年，図1）によって，X線解析法で解明されたのはわずか100年ほど前であった．1915年にブラック親子はX線による結晶構造研究でノーベル物理学賞を受け，子のウィリアム·ブラック（W. L. Bragg: 1890～1971年）が著わした有名な「結晶学概論」の中には，「粉末X線回析技術の改良の最大の功労者はウェストグレンであり，X線回析による合金研究の発達は常にウェストグレンの名と結びつく」と述べられている．さらにウェストグレンは1926～1965年の長きにわたって自国スウェーデンのノーベル賞の選考委員会に所属し活動していた．しかし，日本においてはウェストグレンの名前を知っているメタラジーや科学技術の関係者は極めて少ない．