野呂景義がコークス高炉立ち上げに成功した理由の考察（後編）

摘要

1896年に第9回帝国議会で承認された一貫製鉄所の建設予算は1901年に現在の北九州市八幡において，高炉，その他の製鋼，各種圧延などの諸設備を配置して実現されることになった．高炉は大型のコークス還元方式であり，設計はドイツの技師リュールマン，立ち上げの操業監督はドイツ人のハーゼで，外国勢に依存したスタートであった．1901年11月の竣工式の時点で，図4（前編）に示すように高炉操業に不可欠なビーハイブ型コークス炉設備は未完成であ，製鉄所は自らコークスを製造する技術は有しておらず，これが以下に述べるように高炉操業の失敗の原因の一つであった．1901年11月から約8カ月後の1902年7月に炉内のコークス還元反応は不調で炉内を高温に維持することができずに装入物が固着して操業停止になった．その後，服部漸が1904年2月に再度立ち上げを試みたが，わずか2カ月で前回同様に炉内の固着状況が発生して操業を中止する事態になった．八幡製鉄所の中村雄二郎長官は当時，民間企業の技術指導を実施していた野呂に，失敗原因の究明と対策立案，再稼働の実行指導を依頼した．野呂は直ちにこれに応じて，失敗の原因と対応策に関する報告書「溶鉱炉調査概報」を作成し，高炉のサイズ（高さ，炉復,内容積など），還元材コークスの性状，特性，製造などの状況，操業の非常時への対応方法，熱風炉の操業方法などに問題があることを明らかにした．野呂は,特に図3（前編）に示すように高炉形状の小型最適化（炉の朝顔部，羽口付近の寸法の最適化），コークス製造に関しては種々の石炭配合方式採用と乾留方法の最適化，熱風炉の火煙流れ最適化などの対策を基に，1904年7月に再々立ち上げに挑戦し，苦しい局面があったものの，最終的にコークス高炉の操業に成功した．