アルツハイマー病の分子病態と治療戦略

摘要

アルツハイマー病は，記銘·記憶，思考，判断力の低下などの認知機能障害を中核病態とする神経変性疾患である．高齢社会に突入したわが国では現在約200万人近い認知症患者がいると推定される．その約半数はアルツハイマー病患者であり，今後もその数は増大すると考えられており，予防·治療法の開発が急がれている．アルツハイマー病の病理学的特徴は，アミロイドの沈着と神経原線維変化形成であるが，近年，原因遺伝子の同定とその機能解析が進み，加齢や遺伝子変異に伴って脳内で凝集·沈着するアミロイドβ蛋白が引き金となってシナプス障害，神経原線維変化（タウ病変），神経細胞脱落を引き起こし，やがて認知症を引き起こす（アミロイドカスケード仮説）と考えられている．現在，この仮説に基づいた治療法の開発が複数試みられている．また疫学研究によってアポリポ蛋白E4に代表される危険因子についても複数報告されており，真に有効な予防法の確立が急がれている．