微粒子ピーニングによるSCr420浸炭焼入れ鋼表面のナノ結晶化

摘要

本研究では，代表的な肌焼き鋼として知られるSCr420鋼について，従来のショットピーニングと比較しながら微粒子ピーニングによる組織変化の詳細を捉えることを目的とする。 ショットピーニングによる組織変化は，衝突させる粒子の硬さや直径，重量，衝突時の速度，単位時間および単位面積当たりの投射量など多くの因子の複合的な影響を受けると考えられ，単に粒子の大きさのみに依存するものではない。 しかし，これらの因子を独立して制御することは容易でない。 本研究においては，実用的見地からこれまでに工業的に実施されてきた典型的なショットピーニングと微粒子ピーニングとを比較することに主眼を置く。 SCr420鋼は，浸炭および焼入れ，焼戻し処理後にショットピーニングを施して歯車などの機械部品に多用されていることから，従来から実施されてきたショットピーニングと微粒子ピーニングとの差異を実用的見地から比較するのに好適な鋼種である。 また，これまでに報告されたショットピーニングによるナノ結晶化の例は，試料の硬さが比較的柔らかい鋼種についてであり，浸炭焼入れ鋼や工具鋼などといった硬質の鋼種に対しても同様のナノ結晶組織が生成するか否かについては自明でない。 これらの鋼種では，表面での摩耗損失や疲労による微小き裂の生成が製品としての寿命を決定づける場合が多く，表面のナノ結晶化が製品寿命の顕著な向上をもたらす可能性がある。 以上を踏まえて，本研究では，SCr420鋼を中心としてミクロ組織と硬さの異なるいくつかの鋼種について，微粒子ピーニングによるミクロ組織の変化を詳細に観察し，その過程について考察した結果を報告する。