ニコチンとその他の物質依存研究から見えてくるもの：快体験，動機づけ，学習，幻覚?妄想の手がかりから，物質によらないアディクシヨンまで

摘要

ニコチン依存では，アルコールや覚醒剤などの依存と異なり，"欲求"と"離脱症状"という依存の中 核症状を起こすものの，依存にともなう精神病症状（幻覚，妄想，興奮など）を生じない.このため，ニコチン は依存という病態を研究するうえで有用な研究対象となる.物質依存の中核症状である欲求の発現機序として， 物質固有の報酬効果（一次性強化効果)，物質の報酬効果と結びついた環境刺激（二次性強化効果)，離脱症状に よる不快感が重要であり，これらの三要因から構成されるモデルを示した.この欲求のモデルにおいて，まず， 物質の一次性強化効果は生体に長期記憶として記憶され，また，物質の反復摂取によって脳内報酬系に代償性機 能低下を惹起することで欲求発現のための基盤を形成する.第二の要因である離脱時に生じる不快な精神症状は， 物質への欲求を増強させる.すなわち，離脱症伏は，陰性の情動面の動機づけとして依存形成に重要な役割を果 たしている.第三に，環境刺激が物質の報酬効果と結びついて二次性に強化効果を獲得する現象は，環境刺激が 欲求の惹起だけでなく，再発の誘因となる.このような観点から，ニコチン，アルコール，覚醒剤による欲求を 比較した.また，動物の自発運動量にみられる增感現象（逆耐性現象）は，依存性物質の強化効果と環境刺激の 連合（条件づけ）が強固になっていくプロセスを反映していることを示した.物質によらないアディクシヨン (ギャンブル，インターネットなど）は，最近，物質依存と同様のカテゴリーで考えられるようになつている. しかし，前述の"欲求を構成する三要因"の観点から検討すると，物質によらないアディクシヨンでは，一次性 強化効果の発現において生体側の要因の占める割合が大きく，ギャンブルなどの行為そのものに固有の報酬効果 を認めにくい点で物質依存と異なる.今後，このような観点から，物質によらないアディクシヨンの特性を明らかにすることが重要と考える.