日本眼科学会総会　宿題報告ⅠⅠⅠ眼の再生医学色素上皮細胞を利用した網膜再生医療の可能性

摘要

再生医療は，組織そのものを最初から使用するのではなく，一部の細胞，細胞増殖因子，細胞外マトリックスなどを使用して，再生を人工的に手助けするものである．これには，人工材料なども積極的に利用されてきた．細胞増殖因子の一つとして線維芽細胞増殖因子（b－FGF）は虚血性心疾患などで臨床応用され，パーキンソン病患者には，胎児の脳神経細胞が直接投与された．難治性の網膜疾患にも再生医療が試みられてきた．我々が加齢黄斑変性（AMD）に行ってきた，脈絡膜新生血管（CNV）抜去後に自己の培養虹彩色素上皮細胞（IPE）を移植する方法は， CNV抜去後に障害された網膜色素上皮（RPE）の代用細胞となることを目的としている．本稿では，これまでに行ってきた培養自己IPE移植症例の結果を報告する．また， AMD以外の網膜疾患に細胞移植による治療を適応できる可能性があるかどうか，検討した結果を示す．周辺虹彩切除術により得られたIPEを自己血清で培養し， CNV抜去後の網膜下に移植した．術後6か月以上経過観察できた症例をまとめると， the logarithm of the minimal angle of resolution（log MAR）視力で0.2以上改善できた症例は35眼中18眼（51．5％），不変が11眼（31．5％），悪化は6眼（17％）であった．これは，単純にCNVを抜去しただけの47眼と統計的に有意差はなかった．しかし，培養IPEが網膜下や硝子体内で増殖した症例は1例もなく，また拒絶反応もみられなかった．移植による合併症もなく，移植は安全に行われると考えられた．次に，細胞移植に細胞増殖因子などを加えてIPE移植成績の改善と他の難治性網膜疾患への再生医療の適応拡大が可能かどうかを検討した．まず，サルに異種であるラットRPEを網膜下へ移植したところ，炎症細胞の出現とともにサルのRPEが移植細胞を取り囲むような所見がみられ，生体RPEも炎症反応や網膜下の細胞に対して反応する可能性が示された．また　RPEにb－FGFをはじめとする細胞増殖因子を導入した場合，導入された細胞増殖因子が誘導する一連の遺伝子の動きがあることが判明した． bFGFの場合，最も変動した遺伝子は，細胞外マトリックスのコラーゲンなどの成熟や細胞の生着率に関与するものであった．しかしin vitroの培養では12時間以上培養すると細胞の生着率に有意差がなくなリ，この遺伝子を導入した細胞をラットに移植した4週後では，他の細胞と網膜下に存在する範囲に有意差はないと考えられた．一方，導入される細胞増殖因子が異なれば，細胞はそれぞれ違う反応をする可能性が示され，変動した1つ1つの遺伝子の詳細な影響については今後の検討が必要である．また，遺伝子導入細胞をラット網膜下に移植しても局所に炎症を誘発することもなく，細胞増殖因子とともに蛍光色素でもラベルした細胞の移植では，移植後12週でも網膜下に確認できた．さらに，細胞増殖因子を導入された細胞の移植を受けたラットの血清はRPEこ対して明らかな抗体反応を示す　 ·长趣悉胜い瓤激à椁欷浚环剑暭毎螇湫詣游铳猊钎毪侵椁欷皮い雛dマウスに， bFGFやAxokineを異所性に過剰発現させたトランスジェニックマウスを作製したが，これらの因子は生体に対して過剰に反応し，致死的になったリ，逆に生体から抑制を受けて視細胞の変性抑制に作用しないと推測された．しかし，視細胞変性をコントロールできる光障害ラットモデルを作製し，移植を利用して細胞増殖因子の働く部位を制御すれば，光障害による視細胞の変性の進行を部分的に抑制できた．細胞増殖因子遺伝子を導入した細胞を移植に利用して，難治性網膜疾患に再生医療を適応できる可能性が考えられた．