消化器疾患のUp-to-date : 発症メカニズムから最新の治療戦略まで:序文

摘要

我が国の医療機関において患者数の多い疾患の一つが消化器系の疾患である.ひとくちに消化器疾患といってもその症状や病態は多種多様であり，腹痛や腹部不定愁訴といった日常的に起こり得る症状から，潰瘍性大腸炎やクローン病で見られる難治性?再発性の炎症?潰瘍など様々な病態が存在している.幸いにもこれまでの医学?薬学研究の発展により，過去に難治とされてきた多くの消化器疾患に対しての薬物治療などによるコントロールが可能となってきた.しかしながらその一方で，いまだに根治不能な疾患や病態コントロールの難しい疾患が数多く存在するのも事実である.特に難病指定されている潰瘍性大腸炎やクローン病などの炎症性腸疾患は,薬物治療による病態コントロールが難しい症例も数多く存在しており，病態発症原因の解明による根治が望まれている.同じく難病指定されている好酸球性胃腸炎は，食物などに対するアレルギー反応が主因となって好酸球が消化管壁局所へ異常に集積することにより組織が傷害され機能不全を起こす疾患であり，病態が胃腸炎の場合は薬物治療によるコントロールが難しい症例が数多く存在する.これに加えて近年，アルコール摂取量が少ないにもかかわらず，肝臓への脂肪蓄積，炎症，線維化をきたす非アルコール性脂肪肝炎（non-alcoholic steatohepatitis : NASH)の患者数が増加の一途をたどっており，消化器分野での新たな問題として注目されている.これらの疾患に対しては，その発症メカニズムについて数多くの研究がなされてきたが，いまだに不明な点が多いのが現状である.そこで本特集では，現在，消化器領域で注目を集めている潰瘍性大腸炎および大腸炎関連発がh，好酸球性消化管障害，NASHの3つの疾患について，その発症メカニズムから診断法，さらには薬物治療戦略についての最新の研究成果と知見を，若手研究者の方々に紹介していただいた.潰瘍性大腸炎および関連発がhでは，血管内皮に発現する陽イオンチャネルの一つであるtransient receptor potential vanilloid 4の関与について，最新の研究成果を披露していただいた.好酸球性消化管障害においては，薬理学分野ではあまりなじみのなかった本疾患について，その病態，診断法，現在の治療戦略について最新知見をまとめていただいた.さらにNASHについては，二人の研究者にその発症メカニズムに関わる重要な二つのファクターについて紹介していただいた.その一つは肝臓における活性酸素産生酵素NOX1/NADPHオキシダーゼであり，一酸化窒素やスーパーオキサイドラジカルのバランスが病態発症に関与するメカニズムについての最新研究を紹介していただいた.もう一つは近年注目を集めている腸内細菌のNASH発症における重要性について，ヒト疾患を含めた解析から最新知見をまとめていただいた.消化器疾患をめぐるこれら最新の研究成果や知見が，今後の病態発症メカニズムの解明や薬物治療戦略構築への一助となれば幸いである.末筆ではありますが，ご多忙の中，ご執筆いただきました諸先生方にこの場をお借りして心より御礼申し上げます.2018年9月