循環器疾患治療薬の研究戦略 序文

摘要

高血圧，脂質異常症，急性冠症候群などの主たる循環器疾患に対しては多くの薬剤の開発が進み，治療満足度が高いと言われている.有効な治療手段に乏しい疾患に比較すればこの領域は確かに恵まれた状況にあるが，その中身を詳細にみると解決されていない問題が衣然として多くあることに気付かされる.例えば，高血圧は様々な作用機序の薬剤が開発され，各種調査で治療満足度が高い疾患の最右翼に位置付けられているが，実際には血圧コントロールの目標値を達成できていない患者が半数近いとされている.高血圧は腎臓などの臓器障害ゃ脳梗塞発症に深く関与しており，この現状を見過ごすわけにはいかない.急性冠症候群においては，抗血栓薬を服用していても10%あまりの患者は心血管イベントの発症を免れることができない.また従来の抗血栓薬は，その効力が強くなりすぎると出血の副作用が増加するリスクがあるために匙加減が難しい.抗血栓効果と出血リスクのバランスをいかに調和させるかが大きな課題である.さらに循環器疾患の中には，現在でも有効かつ使いやすい薬剤が少なくその貢献度が十分ではない疾患が多く残されている.脳梗塞，心房細動，慢性心不全，末梢動脈疾患などがこれに該当する.