小児科外来で経験した肺炎球菌occult bacteremia症例の臨床疫学的検討

摘要

目的：侵襲性肺炎球菌感染症のなかで小児の外来診療で経験されることの多いoccult bacteremia症例の臨床疫学的な研究は，わが国での肺炎球菌ワクチンの導入のために重要である．方法：2003年12月から2006年12月までの37か月間，小児の外来診療に関わる5施設（小児科診療所4施設，病院小児科1施設）で経験した肺炎球菌によるoccult bacteremiaの50症例を対象とし，起炎菌の英膜血清型および薬剤耐性に関係するペニシリン結合蛋白（PBPs）の遺伝子変異，さらに合併症について検討した．発症頻度は継続的に血液培養検査を施行している3施設での2003年1月から2006年12月までの4年間の54症例を対象とした．結果：莢膜血清型は3型が1株，4型が5株，6A型が6株，6B型が14株，9型が1株，12型が1株，14塑，18塑がそれぞれ2株，19F型が11株，22型が1株，23A型が1株，23F型が4株，型判定不能が1株であった．薬剤耐性はgPSSPが7株（14％），gPISPが15株（30％），gPRSPが28株（56％）であった．初診時の合併症として7例（14％）に急性中耳炎，3例（6％）にRSウイルス感染症，3例（6％）に熱性けいれhを認めた．経過中に3例（6％）で顔面の蜂巣炎が発症した．Occult bacteremiaの発症頻度は5歳末滴人口100，000人あたり年間328例（249-428例：95％confidence interval［CI］）であり，全国で年間18，027例（13，529-23，520例：95％CI）の発症と推定された．結論：5施設で経験した肺炎球菌occult bacteremia症例における起炎菌の莢膜血清型の頻度分布は，米国，ヨーロッパ諸国，アジア諸国と異なっていたが，7価結合型肺炎球菌ワクチンに含まれる血清型株は36株（72％）であった．起炎菌の43株（86％）でPBPsの遺伝子変異がみられた．肺炎球菌occult bacteremiaの発症頻度は米国の約5倍と推測されたが，両国の医療制度の違いによるものと思われた．