脳分離体外循環中の脳灌流モニターとしての超音波ドプラ法の有用性に関する実験的検討及び臨床使用経験

摘要

脳分離体外循環中の脳灌流の指標として，超音波ドプラ法による脳動脈血流速度の測定が適切であるかどうかを実験的に検討した．まず雑種成犬5頭の脳分離体外循環モデルにおいて，冷却中の直腸温25 deg C，20 deg C及び復温中の25 eg C，30 deg Cの各時点で，脳分離送血量を5，10，15，20ml/kg/minと変化させ，前大脳動脈平均血流速度（ACAv）を超音波ドプラ法により経眼窩的に測定した．脳分離送血量とACAvの間には冷却中r＝0.59，復温中r＝0.85の相関関係がみられた．次に8頭のピーグル犬を，脳分離送血量5ml/kg/minの低流量群（l群：n＝4）と10ml/kg/minの高流量群（ll群：n＝4）に分け，直腸温25 deg Cで90分間の脳分離体外循環を行った後，復温し，ACAvを測定した．また，体外循環前と脳分離90分後の頸静脈血の乳酸/ピルビン酸を求め，比較検討した．体外循環前との変化率でみた脳分離中のACAvは，l群：34(+-)8（％），ll群：59(+-)12（％）とl群で有意に低値を示した．体外循環前を100とした場合の脳分離90分後の乳酸/ピルビン酸は，l群：125(+-)44（％），ll群：73(+-)18（％）とl群で上昇しており，l群では嫌気性代謝が進hだものと考えられた．以上より，超音波ドプラ法にょり測定されたACAvは脳分離送血量と相関し，更に乳酸/ピルビン酸から推定される脳代謝の状態を反映することから，脳分離体外循環中の脳灌流の指標となり得ることが示唆された．また，大動脈弓部置換を行った臨床例5例における脳分離体外循環中のACAvは，術前対照値の49（+-）17％で，全例脳合併症を認めなかった．