IDベース暗号アルゴリズムと暗号メールシステム

摘要

情報漏洩（ろうえい）防止のために，暗号機能／機器を導入するのが有効であることは周知であるが，その簡便な導入を可能にする技術がIDベース暗号と呼ばれる暗号技術であり，三菱電機でも積極的に，その研究開発を行っている。 IDベース暗号は，ID情報を公開鍵（かぎ）にすることができる公開鍵暗号技術であり，実用的な方式が最近になって初めて提案されたにもかかわらず，その有用性のために，それ以後，IETF (Internet Engineering Task Force)，IEEE (Institute of Electrical and Electronics Engineers)，ISO (International Organization for Standardization)といった各種団体での標準化が急速に進められている。 通常，公開鍵暗号では，暗号化の際に用いる公開鍵の正当性保証のために，公開鍵証明書というデータを用いる。 これは，公開鍵と利用者を結び付けるための署名付きのデータである。 IDベース暗号では，IDを公開鍵にできるため公開鍵証明書を用いる必要がなく，便利な方式であり，今後，PKI (Public Key Infrastructure)との共存を図りながら，多様なセキュリティニーズに対応できる方式として注目されている。現在の情報通信技術は，およそ考えられるすべてのものに番号(ID)を割り振り，管理することを可能としたが，その番号体系を利用し，機器認証／管理を行う手段をIDベース暗号は与える。 それによって，今後一層複雑化する情報空間での安全性を確保するとともに，従来人手で管理されてきた物／情報を，現在よりはるかに大きいスケールで安全に管理することが可能になる。 本稿では，そのように近年注目されているIDベース暗号技術について，我々が取り組hでいる基盤技術である暗号アルゴリズム改良提案と，それを用いた暗号メールシステムの試作について述べる。