人獣共通感染症（動物由来感染症）の情報面における獣医系の役割と期待

摘要

人と動物が同じ病原体に感染して発症する疾患は動物由 来感染症，または人獣共通感染症と呼ばれる。そのほとh どは本来動物が保有する病原体が原因となるが，人から動物に感染が及hだ例としても，2009年に新型ィンフル ェンザであったA(HlNl)pdm09 (現在の季節性ィンフル ェンザの一つ）によるブタの感染などが知られる。人に 感染しうる病原体として.これまで千数百種類の寄生虫， 原虫，真菌，細菌，ウィルスなどが報告され，うち重要な 動物由来感染症の原因となるものは世界的に200-300種 類，現在わが国には100種類近くが存在するとされる。国立感染症研究所感染症疫学センターの主たる業務の一 つは.「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関 する法律（感染症法)」3)による医師及び獣医師に義務付け られた感染症及び対象動物からの届出について，自治体が 収集、確認した情報を，国の機関としての立場での総合-分析'還元を行うことである。これら一連の情報の流れを，主に公衆衛生の立場からの「感染症サーベイランス」と称 する。感染症法に獣医師の届出対象疾患が存在することに ついては，行政関連の獣医師であれば周知であると思われ る力;，開業獣医師においては，十分に周知されていない状 況を聞くことがある（私信)。動物由来感染症のうち，今後， 人との関係がより緊密になっている愛玩動物に由来する疾 患（愛玩動物由来感染症）が増加する可能性が指摘されて もおり，本稿においては，飼育愛玩動物を多く取り扱う可 能性が高い開業獣医師を対象として考慮した。「感染症サ一 ペイランス」について，感染症法に基づいたサーベイラン スのシステムや感染症疫学センターとの関わり，獣医師が 届け出を行う感染症及び対象動物とその推移について解説 し，感染症法における獣医師による届出対象疾患ではない ものの，飼育愛玩動物であるィヌにおいても疾患が発生し うるレブトスビラ症に関する分析，感染症サーベイランス において獣医師に期待される役割や今後の展望などについ て述べてみたい。