在来か近年移入の個体群か：遺伝解析に基づく 群馬県のナラ枯れを起こしたカシノナガキクイムシ の由来の^1寸

摘要

ナラ類の集団枯損被害（以下ナラ枯れ）は，カシノナカャクイムン{Platypus quercivorus^kl-,力 シナガ）の樹幹への穿孔に伴うブナ科樹木萎凋病菌 {Raffaelea quercivora)のfe入によって生じる。 1980年代から日本海側を中心に被害面積は年々増加 した。現在，全国的なナラ枯れの被害量自体は減少 しているものの，新たに初めて発生した県もみられ る。例えば，関東地方では，2017年に神奈川県およ び千葉県において新たにナラ枯れ被害が発生した (千葉県2017;谷脇ら2018)o神奈川県では，隣接 する静岡県の被害地から20km以上離れた県南西部の ほか，そこからさらに離れた県南東部でナラ枯れ被 害が発生した（谷脇ら2018)。また，千葉県では房 総半島南部で突然被害が発生している。このように, ナラ枯れは被害地から十数kmも離れた無被害地で飛 び地的に被害が発生することがある。その原因とし ていくつかの仮説がある。例えば，カシナガが風に 乗って大量移動し，その年にナラ枯れ被害を引き起 こしたという仮説である（在原ら2008)。あるレ、は， 風に乗って少数のカシナガが移動し，その年はナラ 枯れを引き起こすことなくナラ類に穿入する。そし て，次年度以降に急激にカシナガの個体数密度が上 昇し，ナラ枯れを引き起こしたという仮説である（在 原ら2008)。一方，無被害地に低密度で生息してい た在来のカシナガの個体数密度が，何らかの理由に よって急激に上昇し，ナラ枯れを引き起こしたとい う仮説（小林、野崎2009)も考えられている。前 二者の仮説は，カシナガが長距離移動することを前 提としている。しかし，カシナガは，寄主木を脱出した後，約70%の成虫が飛翔開始2週間で新たな寄 主木へ穿孔する（在原ら2008)など，個々の成虫 の飛翔期間は短く，また，林分単位における被害木 の推移は前年の被害木周辺に集中するという報告 (小林、上田2005)もあり，実際にはカシナガはそ れほど大きな長距離移動はしないか，したとしても 稀かもしれない。そうなると，在来の可能性が高く なる。このような仮説を検証して，なぜ飛び地的な ナラ枯れ被害が発生するのか明らかにすることは， ナラ枯れが未発生の地域における被害予防の観点か ら重要と考えられる。その事例研究として，本研究では群馬県を取り上げた。