日本作物学会第225回講演会小集会講演要旨「作物学のアイデンティティーを考える」農学研究における還元的アプローチと統合的アプローチ

摘要

私は平成18年に京都大学を退職し，現在は農業、食品産業技術総合研究機構（農研機構）の運営に携わっている．農研機構には約1600人の研究者がいるが，その中で作物学分野の存在感が薄れてきているようにみえる．かつて作物，栽培分野はかなり研究者がいて賑わっていたが，現在はイネ，ムギ類やダイズ等の輪作や栽培、生理の研究を行っている水田作研究者は30名少々しかおらず，それに畑作や草地の研究者を加えても90名たらずである．それに対し，園芸を除く作物育種の研究者は約160人，土壌肥料は約100人，病理、昆虫は約180人と，研究者数でみても作物学は組織の中で存在が弱まってきている．私は，今ほど圃場型の作物研究が求められている時はないとの思いから，本日若手の人達とお話をさせて頂くこととした．今日のタイトルは「農学研究における還元的アプローチと統合的アプローチ」としたが，まず結論からいうと，作物学においては，還元と統合という科学の2つの方法論がともに必要であるが，今後は統合的アプローチが重要になると考えている．本日の講演では，最終的に「若い作物学徒への期待とメッセージ」という内容で話をまとめる予定であるが，なぜ私がこのような期待を抱き，メッセージを送るかということをわかってもらうために，「グローバルに見た農業をめぐる状況」，「21世紀の日本農業の中心的役割と課題」，「21世紀型農業に向けた作物学の重要課題」そして「作物学研究における統合的アプローチ」といった流れで話を進めたい．