ヒト生物時計の構造と概日リズム制御機構

摘要

バクテリアからヒトに至るまで地球上の生物の行動および生理機能には、約24時間周期のリズム（概日 リズムcircadian rhythm)がみられる。概日リズムの発振源は、生体内の内因性振動機構である生物時 計である。ヒトを含め哺乳類の生物時計の中枢は、脳内視床下部視交叉上核に存在する（中枢時計)。生 物時計の自律振動メ力二ズムは、時計遺伝子とよばれる一群の遺伝子の転写と翻訳を介するフィ一ルバ ックループによると考えられている。そして、近年の分子生物学研究の発展により、肝臓、肺、骨格筋 などの末梢組織ゃ視交叉上核外の脳部位にも時計遺伝子が発現し自律振動する生物時計（末梢時計）が 存在することが明らかとなった。つまり、哺乳類の生物時計は中枢時計と末梢時計からなる階層的多振 動体システムである。中枢時計である視交叉上核は、外界の光情報を網膜視床下部路を介して受容し固 有の内因性周期を環境周期に同調（外的同調）させると同時に、神経性あるいは液性の概日リズム信号 を全身の末梢時計に伝達することにより行動と生理機能を時間的に統合している（内的同調)。