小麦が日本へ伝播した道，日本の小麦の先祖はアフガニスタンか？－小麦種子貯蔵タンパク質Glu－D1f遺伝子の地理的分布からみた，日本への小麦伝播経路の解明-

摘要

小麦（普通系小麦：Triticum aestivum L.）は，7000年前に中近東地域に存在しており，その起源地はカスピ海西岸地域とされている．その小麦はシルクロードを経由して日本へ伝播したといわれているが，具体的な伝播ルートは明らかになっておらず，そのことは科学的にも解明されていないのが現状である．しかし，小麦に限らず，他の作物の日本への伝播ルートの解明の研究も行われており，興味深い．たとえば，抹茶の日本への伝播は，建文二年（1191）に栄西禅師が中国での禅の修業を終えて帰国のときに持ち帰ったのが最初とされている．栄西禅師は中国の漸江省の港，寧波から出港し，当時の日本の出入り口である長崎の平戸の古江湾，現在の牛津町の砥川近辺に船で着いたといわれている．その点，小麦については，まったくわかっておらず文献でも奈良時代の日本書紀（720年）や古事記（712年）に小麦栽培の記述が残されているだけで，いつどこから日本へ伝播したのかは不明である．