限界集落における野生生物保護と林業再生—行政施策と住民と科学の融合へのチヤレンジー

摘要

対馬市では，地元住民や島外におけるッシマヤマネコ保護意識の高まりの中，平成23年12月「対馬市森 づくり条例（以下，条例）」（平成24年4月1日より施 行）を制定した。同年には，10年間を見通した「対馬 市森づくり基本計画」も整備，条例制定の1年後には， 森林環境の保全，労働安全，計画的な森林管理を目的と し.伐採.搬出，更新に関する指針を盛り込hだ「対馬 市伐採ガイドライン」が策定され，環境に配慮した森づ くりに踏み出した。平成23年は森林法の一部改正が行 われた年でもあり，それまでの市町村森林整備計画に代 り森林のマスタープランを目指すことになつた。対馬市 の取組みは，そうした国の動きを独自の問題意識からよ り早い段階で捉え行動に移したものである。こうしたい わば地域森林管理制度を充実させた背景には，対馬市の 森林が昭和30-40年代に植えられたものがほとhどで あり，今後10年の間に人工林を中心に伐期を迎える森 林が7割を超えること，広葉樹チップ生産が活発化の兆 しをみせ，大規模面積の伐採による森林の公益的機能低 下を未然に防ごうとしたことにある。特に，対馬では山 から海までの距離が短く，伐採による森林環境の変化 が，魚貝類の減少など海の環境変化へと直桔することが 予測され.養殖業を始めとする漁業への影響を回避する ことも重要な課題と認識されている。また，対馬の森林 は，対馬の人々の暮らし方とともにあった絶滅危惧種で あるッシマヤマネコをはじめ対馬固有の野生生物の生息 環境としても重要な意味を持っている。対馬の新たな森 林制度は，地域の暮らしや生産活動を踏まえ対馬の文化 を育む重要なものとして制度設計がなされている。他方， 近年，社会、経済、環境が融合する姿の実現には，ェコ システムマネジメントを理論とする順応型管理システム が有効であるとされ.条例，基本計画，伐採ガイドライ ンのいずれにおいても，PDCAサイクルで進めること が明記されている。つまり，対馬市の地域森林管理制度 の現段階は，P (Plan)に相応し，その実現には.概念 的装置であるD — C —Aを具体化することが市担当課 の課題となった。こうしたことから，生態的、動態的に PDCAサイクルを実践しょうとしたのが本取り組みで-ある。