文学の生まれる場所 - 宮沢賢治と東北（3）

摘要

グスコープドリの伝記」とその背景 -　 昭和7（1932）年3月発行の季刊誌『児童文学』に掲載された「グスコープドリの伝記」は、宮沢賢治の童話の中では「銀河鉄道の夜」と並び最もよく知られた作品の→つであるが、今回と次回は賢治白身の理想的自画像が描かれているこの半自叙伝ともいうべき作品を手掛かりに、その世界観の一端を見てみたい。 「グスコープドリの伝記」が発表される前年の昭和6年9月19日、賢治は東京へ行く車中で発熱し、21日付けで両親や弟妹宛の遺書を書き残している。自分の死を予感しながら、賢治は27日の夜行寝台で花巻に戻り、その後、長い療養生活に入る。 昭和7年2月29日付の鈴木東蔵宛の葉書には、「小生儀歩行二努メ候へ共　 息切レ甚シク辛ク十数歩こ達スルノミニ有之丈夫の方ヨリ見テハ情ナキモノナレドモ如何トモ仕方無之候」とあり、体調の悪化を嘆く様子がうかがえる。 また、「グスコープドリの伝記」はその初期形「ペンネンネンネンネン.ネネムの伝記」（ばけものの世界を舞台とし、主人公ネネムは世界裁判長となり、やがて慢心のために失敗を犯す）を下敷きに、前駆作品「グスコンプドリの伝記」へと書き直され、その後、数度の改稿を経たのちに雑誌掲載として発表される。