輸液療法の実際28高張食塩液2-循環器系に対する薬理作用

摘要

産業獣医療分野において，小用量の高張食塩液（HS）の急速静脈内投与（7.2％-NaCl，2，400mOsm／l，4～5ml／kgを4分）が，エンドトキシンショック，出血性ショック，血液量減少性ショック動物に対して有用であることが多くの研究者および臨床獣医師により報告されている。また，HSSには1，232mEq/lのCl~-が含まれている。 このことは，第四胃変位でみられる低クロール性低カリグム性代謝性アルカローシスの病態改善に対してもHSSが有効であることを示す。また，子牛下痢症における脱水改善を目的としたHSSの応用について支持する報告も多い。これはHSSによる循環血薬毒改善および投与後の自己飲水によるものである。 しかし，多くの子牛下痢症では低ナトリウム血症を呈しているため，HSSによる急激なNa~＋負荷は脳僑でのミュリン鞘脱随を生じさせる危険性が高い。 人医療分野において，低ナトリウム血症の補正については血祭Na~＋濃度の目標補正値を設定した一定のガイドラインが設けられているが，いずれの場合においてもNa~＋補正は続序に行うべきものである。 したがって，子牛下痢症においては，血液量減少性ショックなどの緊急性を要する症例でなければ，HSSを用いる必要はない。 以上のことから，産業動物医療分野におけるHSSの主な適応症は，エンドトキシンショックを伴った甚急性乳房炎，低クロール性低カリウム性代謝性アルカローシスを示す第四胃変位，細胞外液が非機能化した熱射病 鞣N血液量減少性疾患および肺水腫によるガス交換不全症があげられる。 本満では2回にわたり，なぜこれらの病態に対してHSSが有効であるのか，HSSの循環器系および呼吸器系に対する薬理学的作用を中心に検証する。 今回は，HSSの血行動態に対する薬理作用を中心に紹介する。