馬の骨軟骨再生に対する生体組織工学の応用

摘要

一般に，馬にとって骨折は致命的な損傷となりうる。骨 折治療のためには，長期間の骨折部位の固定が必要であるものの.約500 kgに及ぶ体重を有する成馬では，その安定 的な固定維持は難しいとされる。効果的な骨折治療のため には，早い骨再生と強固な固定が必要である。医学領域に おいて.骨損傷に対して生体組織工学的手法を用いること で治癒促進を図る方法が検討されている。また，離断性骨 軟骨症に代表される競走馬の関節軟骨疾患に対して有効な 治療法は確立されておらず，獣医療分野も含めて関節軟骨 再生のための研究が盛hに進められている。関節軟骨を構 成する硝子軟骨は高度に分化した細胞で構成されており， その周囲を構成する細胞外マトリックス（2型コラーゲン， プロテオグリカンなど）の細胞回転周期は遅く ,欠損や損傷 後の治癒課程で脆弱な線維軟骨などにより置換されること が原因とされている。線維軟骨は硝子軟骨に比較して脆い ことから，その強度に問題を有している。現在，ラットや マウスを用いた研究において再生医療技術を用いた軟骨再 生が示されているものの，高等動物では生体側の軟骨と移 植した軟骨片間の連続性ならびに軟骨と軟骨下骨間に介在 するtide markの形成が不十分である点が問題とされてい る1"。 tide markは関節軟骨上層の未石灰化層（表層，中間 層，深層）と関節軟骨下層の石灰化層との中間の境界であり.未石灰化層と石灰化層との間を強い勘合力により保持する重要な構造である。一般に，変形性関節症ではtide markの不整や重複化が観察され，軟骨層の菲薄化をきた すことから，関節軟骨再生においてtide markの再生は重 要といえる。現在，これらの点を克服するために，新しい 生体組織工学を導入した再生医療技術が臨床応用されてい る。本稿では，馬における骨再生ならびに関節軟骨再生に 対する生体組織工学の応用について述べる。