小型ピロプラズマの生態と疫学

摘要

我が国の主要な放牧病として問題となる牛の小型ピロプラズマ病を引き起こす原虫種，Theileria orientalis(别名： Theilena sergentibuffeulonentalis)は，マダニによって介 される。海外に分布する悪性タイレリァ氇(Thdleria annulata とTheikria parva)と比較して，良性タイレリア種とも呼 称されている。感染した牛の多くは不顕性に経過する力;， いわゆる血管外溶血により発熱を伴う難治性の貧血を呈す ることもある。発症した牛は肥育効率や乳量の低下，およ び流死産や繁殖障害を引き起こすことから.大きな経済的 被害を生じることになる。また，持続的に原虫を保有して いる不顕性感染牛または回復牛も，様々なストレス要因（放 牧，妊娠，分娩，輸送，重複感染など)で，再び強く発症す る。一部の小型ピ口ブラズマ感染母牛は子牛への垂直感染 を引き起こすことも分かってきた1。かって効果の見られ た治療薬（パマキン~R: 8-アミノキノリン）と予防ワクチン (毒血ワクチン：感染血液の接種）は，副作用，薬剤耐性， 感染症の蔓延などの理由で.2005年および1979年にそれ ぞれ販売/使用が停止となっている2)。現在，小型ピロプ ラズマの媒介者（ベクター）を制御するために殺マダニ剤 (バイチコールなど：フルメトリン）のプアオン散布が 積極的に行われている力5,その経済的負担は大きい。効果 的な治療薬や予防ヮクチンを失った小型ピロプラズマ病は，国内の家畜産業でますます深刻化しつつある。本稿で は.我々が行ってきた小型ピロブラズマの疫学研究から分 かってきた最新の知見を紹介し，その問題点と対応策につ いて考察する。