中国の林木遺伝育種事業の現状と展望

摘要

林木遺伝育種事業は約二百年の発展の歴史をもち，林業先進国の営林事業に重要な役割を果たしている。 林木の品種導入，選抜と交配の歴史は長い。 特に，導入育種は約2000年の歴史があるが，科学的な育種の歴史はそれほど長いわけではない。 19世紀にダーウィンの進化論が当時の林学界に大きな影響を与え，オーストリア，スイスの林学者はカラマツ，トウヒ，マツ，ナラなどの産地試験により，種内変異の存在を立証した。 1892年にIUFROが主な造林樹種の国際産地試験を計画し，1908年にはヨーロッパアカマツとヨーロッパトウヒの試験設計案が示された。 アメリカのバーバンクとソ連のミチエーリンの研究は林木育種にそれぞれ影響を及ぼした。 1930年代後半，アメリカ，イタリア，ドイツ，デンマーク，日本などがポプラやカラマツの交雑を大量に行った。 1936年にスウェーデンではヤマナラシの三倍体クローンが作り出され，倍数性育種のブームを起こした。 デンマークのラルセンがブナなどの選抜を行い接木によりクローン増殖を行った。 この増殖法はその後，優良種子生産用の採種園造成に活用され，50年代以降，採種園による種苗増殖法が逐次世界各国に採用された。このような先駆者の活動により林木遺伝育種学の基盤が築き上げられた。 第二次大戦後の木材ニーズが林木育種の実践と理論的発展を推進した。 1963年，1967年と1977年にスウェーデン，アメリカ，オーストラリアでそれぞれ開催された世界林木遺伝育種セミナー（Unasylva，1964，1969，1978）及び他の多くのシンポジウムにより，それまでに蓄積された経験が総括され，林木遺伝育種事業の普及と発展に大きな影響を与えた。