神経系によるショウジヨウバエ腸管の構造と機能の制御

摘要

腸管は多くの生物で最大の臓器であり，摂取した食べ 物を消化,吸収し，個体の栄養バランスを保つことで生命活動を支える中心的な器官である。昆虫が100万以上の種にまで発展し，地球上のあらゆる環境に適応し繁栄 した要因の1つは，世代交代が早く種の増殖と進化が早 く進hだことであると思われる。その背景には植物から 動物に至るまで様々な生物をエサとして，吸収し成長で きたことが考えられるが，そのために最も重要な器官は腸管であると言える。哺乳類ではこのような腸管の機能 やその恒常性維持に，腸管神経系や内分泌系などの高次 ネットワークが複雑に関与していることが知られてい る。腸管神経系を介した制御の例としては，腸管の蠕動 運動の制御や消化液の分泌制御などがある。これらは， 摂取された食物によって引き起こされる腸管管腔の拡張 や伸展，内容物などの情報が，感覚神経によって鋭敏に知覚されることで引き起こされる(Fumess, 2012; Olsson and Holmgren, 2001)。哺乳類では全神経細胞の約7割が 腸管に集中しており，ヒトでは脊髄に匹敵すると言われ ている。腸管を取り囲む筋肉の収縮,蠕動運動にはァゥ エルノッノヽネ申経叢力S (Baumgarten et al,,1970; Fumess,2012),消化液分泌と絨毛運動にはマイスネル神経叢が 関与していることが知られている（Goyal and Hirano, 1996)。