上顎急速側方拡大装置と上顎前方牽引装置を併用した骨格性下顎前突症の早期矯正治療症例

摘要

要旨:日常の矯正臨床において,混合歯列期の反対校合者の治療は高い割合を占めている.今回第1期動的治療としてフック付レジンスプリントタイプ接着性上顎急速側方拡大装置により上顎骨側方拡大を行なった後,上顎前方牽引装置で上顎骨の前方牽引を行なったHellman's development stage IIIA期からIIIB期の骨格性下顎前突5症例について第1期動的治療終了時,保定中の頭部Ⅹ線規格写真の計測値を増田らの正常咬合者の基準値と比較することにより検討した結果,以下の知見を得た.1.上顎前方牽引装置は, orthopedic forceとして有効に作用し, 3症例とも第1期動的治療中,基準値を上回る上顎骨の前方移動と上顎骨前後径の増大が認められた.保定中の3症例中1症例に上顎骨の後方移動(後戻り様変化)が認められSNAが0.9-減少したが,他の2症例は後戻り様変化を示すことなく良好な成長が認められた.2.Hellman's development stage IIIB期に第1期動的治療を開始した1症例に上顎骨の後戻り様変化が認められたが, Hellman's　 development stage IIIA期に上顎前方牽引を開始した2症例では良好な経過が認められた.3. 3症例とも上顎犬歯部から前下方に牽引したが,第1期動的治療中palatalplaneのcounter clockwise rotationを示し,保定中2症例で後戻り様変化とみられるclockwise rotationが認められた,4.フック付レジンスプリントタイプ接着性上顎側方拡本装置により上顎骨を側方拡大し,鼻上顎複合体の縫合を離開した後上顎前方牽引を行った.しかし,上顎骨の前方移動量は側方拡大せずに前方牽引した報告と比較して,より多く前方移動が見られたとはいえない結果であった.5.保定中,上顎骨の前方成長量に近いあるいはそれを陵駕する下顎骨の前方成長が認められたため,上下顎関係は悪化した.以上より上顎前方牽引治療の予後の良否は,上顎骨の後戻り様変化,下顎骨の成長量および成長方向に大きく左右され,第1期動的治療後の上下顎骨の成長に対する対応が重要であることが示唆された.