Zscan4によるテロ メァ維持と4倍体補完能の回復

摘要

マウス多能性幹細胞（ES細胞）を4倍体にした胚盤胞に注入すると，できてくるマウス個体は，注入したES細胞由来の細胞 だけで構成されていることが知られている。これは，現在のところマウスだけでできる，細胞の多分化能力の究極のテス卜 であるが，通常10-15個のES細胞を1つの4倍体胚盤胞に注入すると，5%程度の胚盤胞が完全なマウス個体になる。また， きわめて頻度は低い（<0.5%)ものの，たった1個のES細胞から，マウス個体を作り出すことができることも示されている。 マウスES細胞の多分化能は，長期培養を続けるといちじるしく減少することが知られているが，これは，マウスES細胞を 使った人の病気のモデルマウス作りに際してだけでなく，近年，注目されている再生医療においても，人のES細胞や，iPS 細胞（induced pluripotent stem cells,誘導型多能性幹細胞）を活用していく際にも問題となる。最近われわれは，着床前 期の2細胞胚とES細胞で間欠的に発現する遺伝子Zscan4 (Zinc finger and SCAN domain containing 4)の発現頻度を高め ることによって，マウスES細胞の多分化能を顕著に高めることに成功した。たとえば，4倍体補完法において，マウス個 体ができる成功率は10-15個のES細胞を注入したときには20%に，また，1個のES細胞を注入した時でも，5%にまで 高めることができた。本稿では，これらの結果を解説するとともに，ES細胞を若返らせるの機能について議論する。