但馬牛における遺伝的多様性の 維持のための取り組みと 致死相当量の推定

摘要

わが国で造成された肉用牛品種である黒毛和種を取り巻く環境は1991年頃を境に大き く変化している。この年には牛肉の輸入自由 化が開始されたことから、海外から輸入される 安価な牛肉との差別化を図るべく、肉質、とり わけ脂肪交雑の改良にさらに重点が置かれ るようになった。また、同年にはアニマルモデル BLUP法による育種価評価事業が開始され、 枝肉形質に関する遺伝的能力を数値として評 価し、選抜基準に取り込むことで品種改良が 進められるようになった。主にこの2つの出来事 により、同品種では肉質において遺伝的に優 れている種雄牛に供用が集中する傾向に拍 車がかかり、遺伝的多様性が急速に低下して いることが問題となっている（野村2000;本多 2001)。家畜種における遺伝的多様性の速や かな低下は、後述する近交退化、遺伝的改良 の源泉となる遺伝的変異の速やかな減少-遺 伝的改良量の偶然による変動といった品種改 良において好ましくないさまざまな現象を引き 起こす可能性を含hでいる。また、例えば、温 暖化による気候の変ィヒ'新奇的な疾病の蔓延' 農家や消費者のニーズの変化等の潜在的な 環境の変化に対する適応能力の低下につな がり、柔軟性に欠けた脆弱な集団になりかね ない。このような理由から、家畜品種の遺伝的改良は、集団が保有する遺伝的多様性にも注 意しながら進めていく必要があると考えられて いる。