飼料学（号外）—クジラ一

摘要

令和元年(2019年)7月1日に商業捕鯨が31年 ぶりに再開された。相互のコミュニケーション 能力や母子関係の観察結果などから高等哺乳類 に位置付けられるクジラを捕獲することには 国際的な批判も多い中での再開である。わが 国における捕鯨の歴史は古く，その主体は近海 において小型の船を利用したもの（図1)であり， 大型の船を利用した南氷洋や北極海といった 遠洋での捕鯨活動は第二次世界大戦以降に 行われてきた。そもそもは，畜産業の発展が 遅れていたことでゥシ，ブタ，ニヮトリなどの動物性の食肉の生産量が少なかったことと，近海で捕獲したクジラ肉の食用利用に対する抵抗が少なかったことが，商業捕鯨の盛況に寄与するものであった。齢50歳を過ぎた方々には，肉の 缶詰として大和煮といえば，鯨肉であり，これは牛肉の大和煮に比べて手頃な価格で流通して いたことを懐かしく思い起こされるであろう。今回の商業捕鯨再開では，捕獲量は調査捕鯨の時に比べて半分以下に減少し，捕鯨可能な海域は排他的経済水域に限られることで捕獲可能な クジラの種も限定される。さらにこの水域で捕鯨が行われることに順応したクジラが他の海域 に移動する可能性もあり，捕獲可能な数は保証されない。また，捕獲後のクジラについては， 古くから外皮に始まり骨に至るまで捨てる部位がないとされているが，肝心の肉については， 家畜の食肉が十分量流通する現状では，需要が限りなく低くなつている。このような諸問題を 抱えた商業捕鯨の再開では，食に関する文化論も取り上げられており，動物愛護団体の観点では 隣国の犬食文化と同等に扱われる。大きな違いは，隣国では政治的に過去の食文化として規制を 行おうとしているのに対して，捕鯨における鯨肉の食文化をわが国の政府は支援している点で あるとの指摘もある。文化活動と商業的な活動との関係までを言及する立場にはないのでこの点の 追究は差し控え，過去に飼料資源として捉えた経緯でまとめた資料があるので，連載の番外編 としてクジラについて述べる。