モンゴル国における家畜飼養の動向 －モンゴル草原の植生保全の視点から－

摘要

モンゴルにおける牧畜業は，自然牧野を利用した遊牧形態が特徴である。家畜の生産物は，農業生産物全体の80.1％を占め，牧畜業は国内の基幹産業として経済の中枢を担ってきた。 しかし，この十数年で牧畜産業を取り巻く環境が大きく変わった。1992年からの民主主義体制への移行，市場経済化への転換や近年の冬期における雪害（ソド）などの自然災害も牧畜産業に深刻な影響を与えている。 これらの社会情勢および牧畜に関わる環境変化により家畜の飼養頭数および家畜種構成に変化が見られた。 モンゴル国のような半乾燥地帯における牧野は動物の表皮のようなものであるので，もしこの家畜飼養状況の変化がこのまま進行するならば自然牧野の植生に及ぼす影響は大きく，国土の砂漠化につながることが懸念された。また耕作地の放置は農産物の減産と牧野の荒廃を助長する結果となることから，家畜導入による有機質肥料の確保ならびに耕作地の輪換式利用法の確立が望まれる。 またモンゴル国における牧畜産業の維持発展には，科学的調査による自然牧野のバイマス量の推測に基づいた家畜飼養頭数やその種構成比の適正化を図り，’牧野の多様な植生を維持することが極めて重要である。 さらに，自然牧野の草資源を餌として生産される畜産物は有機的であるので，モンゴル国は今後，世界的にも極めて安全な食糧や生活材料の提供国になり得るものと考える。 そのためにも，アジア大陸の皮膚であるモンゴル草原は豊かなまま維持されることを望みたい。