応力を基準としたアルミニウム合金管の成形限界

摘要

チューブハイドロフォーミング(THF)は，自動車の軽量化，車体構造の高強度化の有力な手段として注目されている．THFは，曲げ，潰しなどの予加工と液圧バルジ加工から構成される多工程加工であり，円管は複雑なひずみ経路を受ける．このため破断の事前予測が難しい．THF工程の最適化は重要な技術課題であり，そのためには，成形限界の高精度な予測手法の確立が不可欠である．板材成形の分野では，比例負荷時の成形限界ひずみをひずみ空間にプロットした成形限界線(FLC: Forming Limit Curve)が，成形限界の判定基準としてしばしば用いられている．しかし，FLCはひずみ経路に依存して変化することが実験および理論解析によって示されており，ひずみ経路が直線から外れる場合には，破断の判定基準としてFLCを用いることは不適切である．一方，成形限界時の応力状態を主応力空間にプロットして得られる成形限界応力線(FLSC: Forming Limit Stress Curve)を成形限界の判定基準として用いる方法が提案されている．FLSCはひずみ経路に依存しないと報告されており，THFのように材料が複雑な変形履歴を受ける場合の，成形限界の簡便な予測手段として期待できる．しかし実験技術上の難しさのため，FLSCを実測したり，FLSCがひずみ経路に依存しないことを実験により立証した研究報告はないようである．本研究では，任意の応力経路を薄肉円管に負荷できる軸力－内圧型のCNC2軸応力試験機を用いて，線形応力経路および種々の複合応力経路におけるA5154-H112押出し円管の成形限界応力を測定する．その結果，成形限界応力を応力空間にプロットすると，ひずみ経路にかかわらず，それらははば同一曲線上に載ることを実験的に立証したので報告する．