精密転造加工における工具摩耗への表面処理の影響

摘要

種々の表面処理を施した平板状転造工具を用いて，微小径で長軸の腕時計部品（巻真）を実工程の転造加工により量産製造した，各種表面処理を評価し，工具の摩耗状態やチッピングおよび表面粗さの変化などを調べ,以下の結論を得た．（1）スクラッチ試験の結果,SKH51材へのプラズマ窒化により,TiCN膜が破壊しにくくなる。またDLCコーティングした工具はTiCN膜の工具より摩擦力を小さくでき，垂直荷重に対する皮膜強度が大きい.（2）工具のP部コーナーおよび平面R部では，実工程の転造加工においてTiCN膜がDLC膜より剥離しにくく,エ具の摩耗量を小さくできる．またR部においてTiCNコーティングした工具の表面粗さは基材の違いやプラズマ窒化の有無にかかわらず，2.5 X 10~5個加工した後でも加工前と大きく変わらなかった。（3）拡散浸透処理およびプラズマ窒化処理した工具はDLCやTiCNをコーティングしたままの工具より摩耗しにくい傾向が見られる．また粉末ハイス工具やSKH51にプラズマ窒化後TiCNコーティングした複合表面処理工具は，工具摩耗の低減に非常に有効である．これらの工具を用いることで,断面減少率約50％もの加工部を持つ微小径長軸部品が室温において摩耗量約4μm以下で,2.5 X 10~5個以上も転道加工可能であることがわかった。 （4）ねじ工具の摩耗は転造品が約0.5～3.3回転するスタート位置からの距離約1～8mmの加工領域で顕著である。 これはねじ転造による加工がスタート位置から約8mmの領域内でほぼ終了するためと考えられる．最後に,本研究にご協力いただいたセイコーインスッル株式会社の関係諸氏に感謝いたします．