炎症性腸疾患と大腸癌

摘要

大腸癌の発癌母地として考えられている炎症性腸疾患の代表として，まず，潰瘍性大腸炎があげられる．潰瘍性大腸炎の癌化においてもっとも高頻度に認められる遺伝子異常はp53である．p53の変異は大腸癌で約80～95％に，dy坤asiaで約65％に認められ,炎症粘膜では低頻度であることから，癌発生過程の初期に起こると考えられている．一方,通常のadenoma－carcinoma sequenceで認められるAPC．K－ras遺伝子の変異は，潰瘍性大腸炎に発生する大腸癌においては高くない，ミスマッチ修複素の異常に起因するmicrosatellite instabilityについても，報告により頻度の差はあるものの，潰瘍性大腸炎に合併した大腸癌でも認められている．最近，Crohn病での癌合併例も注目されており，炎症性腸疾患に発生する大腸癌は生物学的悪性度が高いという特性をもち，早期に発見することが臨床上重要である．分子生物学的追究による癌化機序の解明が待たれる．