脳梗塞患者に対する細胞治療の現状

摘要

近年，中枢神経再生医療に関する研究が急速に進歩しており，とくに細胞治療はこれまで困難であった脳梗 塞の後遺症を回復させるためのブレークスルーとして期待されている.しかし，細胞治療特有のパラメータや問題が存在し，基礎研究の成果を早期に臨床応用へつなげる妨げとなってきた.それでも，2000年代前半に は脳梗塞患者に対する細胞治療の先駆的な臨床試験が報告された.残念ながら安全性や有意な治療効果を示 せずこれらの試みは失敗したが，これを受け2009年，アメリカでStem cell Therapeutics as an Emerging Paradigm in Stroke (STEPS)が発表された.これはアメリカの脳神経外科医，神経内科医らが中心となって， 脳卒中に対する幹細胞治療を研究開発する際のガイドラインを作成し，世界の研究者に多大な影響を与えた. 実際，STEPS発表以後は細胞治療研究（とりわけ他家細胞ソ—ス）が世界規模で拡散している.他方，わが国 では自家細胞移植を中心に研究開発が進められてきた経緯があるが，再生医療の臨床応用に関する機運が高 まっているいまこそ，日本発のガイドラインを作成するべきと考えられる.今後も研究開発はいつそう促進さ れることと考えられるが，将来的にはテ一ラーメイド医療としての自家移植か，または細胞製剤(off the shelf product)化された他家移植による産業化をめざすか，その方向性が問題となる.今後は最新の細胞治療に関し て，医療経済学や脳神経倫理学などさまざまな側面から社会学的な検討を行う必要があると考えられる.