高分解能スピン分解光電子分光装置の開発と表面ラシュバ効果の研究

摘要

角度分解光電子分光（ARPES）は，外部光電効果により，固体中の電子のエネルギーと運動量を直接観測できる点から，新機能物質の物性研究に非常に貢献してきた実験手法である。特に1986年の高温超伝導体の発見とその後の爆発的な研究展開に触発されるように，光電子分光のエネルギー分解能は20年ほど前の0．3eVから二桁以上も向上し，現在は1meV以下という超高分解能測定が可能となった。このような装置の高性能化が進んできた一方で，電子のもう一つの重要な自由度である「スピン」を観測する実験は，その検出手法の本質的な難しさにより，あまり活発とは言えない状況であった。これは，従来型の電子スピン検出器の検出効率が悪く，十分な統計精度を得るために分解能を大幅に犠牲にせざるを得ず，微細なスピン構造を議論することが困難であったためである。