機械要素の表面性状と性能：表面テクスチャリングによるすべり軸受の流体潤滑性能の向上

摘要

近年のAV，OA機器の性能の発達はめざましく，その回転主軸（スピンドル）部に求められる機能も年々厳しくなってきている．小型精密機器を代表するハードディスクドライブの場合，そのスピンドルが望まれる繰り返し振れ精度(RRO: Repeatable Run-Out)は0.1μmのオーダであり，非繰り返し振れ精度(NRRO: Non-Repeatable Run-Out)は0.01μmのオーダである．さらに，10,000rpm以上の高回転速度化が目指されていると同時に，それらの性能が10万回以上の起動/停止繰り返し試験を行った後も低下してはならないといった過酷な耐摩耗条件も要求されている．これら小型精密機器のスピンドルには，従来，転がり軸受が用いられてきたが，近年では，より良好な振れ回り特性を有する「流体動圧軸受」の採用が主流になりつつある．流体動圧軸受とはすべり軸受の一種であり，軸受面に何らかのテクスチャを設けることによって流体潤滑状態への遷移を積極的に誘起し，それによって形成される潤滑油膜（あるいは空気膜）で軸を支持するタイプの軸受を指す．本稿では，表面にテクスチャを有するすべり軸受の一般的な数値解析手法を概説するとともに，その代表的な例として，近年，より注目を集めているスパイラル溝付軸受（適用例を図1に示す）とマイクロディンプル軸受に関する研究動向を示す．