琉球列島のサンゴ礁の諸問題：礁形成の解明から生物多様性保全まで

摘要

サンゴ礁の保全と再生の促進は，地域社会の環境と経済の好循環による持続可能な発展に貢献する。 沖縄県では近年，漁獲量の低下と漁獲される魚のサイズの低下が著しい。 健全なサンゴ礁は，魚類や甲殻類，藻類など多様な生物に生息場所を提供するため，サンゴ礁の健全度の向上により，長期的には漁獲量の回復が期待される。また，美しい水中景観が維持されると，ダイビングやエコツアーなどの観光産業の維持育成にも効果がある。地政学的にも重要な南西諸島や伊豆小笠原諸島の海岸線の多くがサンゴ礁に縁取られている日本にとって，サンゴ礁保全は，国土の保全や排他的経済水域の確保（沖ノ鳥島）にも関係する重要問題である。 本小論では，富栄養化，赤土流人，海水酸性化，海面上昇などサンゴ礁において現在進行中の問題について紹介した。 これらの課題は，産総研·地質情報研究部門の重点課題として策定中の「沖縄海域プロジェクト」の一部としてアプローチ可能な研究要素を含んでいる。 沖縄本島周辺海域での水質および底質調査，海洋炭酸系長期モニタリング点の選定に関する予備的検討，さらに，サンゴ礁形成過程解明のための基礎情報整備などが，これに当たると思われる。沖縄海域の環境問題の解明は，地質情報研究部門·物質循環研究グループのミッションである4つの「環境」すなわち「都市環境」，「沿岸環境」，「外洋環境」，「古環境」を対象にして地球化学的手法を用いて将来の都市·沿岸·地球環境の予測手法を開発するという目標にも合致するものである。