育下二ホンザルの毛づくろい交渉から見た社会関係

摘要

上野動物園のサル山で飼育されている二ホンザル(Macaca fuscata) 8家系.36頭の社会関係 の特徴を，毛づくろい交渉の内容（頻度，毛づくろい相手の特徴，毛づくろい交渉の方向性）に着 目して調査した.上野動物園の二ホンザルは，年齢や順位が高いほどより頻繁に毛づくろい交渉を 行い，雌はグルーマーとなることが多くなるなど，野生.餌付け群の二ホンザルの毛づくろい交渉 に見られる特徴と似た特徴を示した.しかし，毛づくろい交渉に占める非血縁個体どうしの交渉の 割合力s47%と高いこと，雄に対して毛づくろい交渉を行う割合に性差は認められないこと，血縁個 体一個体あたりの毛づくろい交渉の頻度には家系間で違いがあることなど，野生、餌付け群とは異 なる特徴もみられた.放飼場では個体間距離が短ぐまた食物を巡る競合などの社会的ストレスに さらされていると考えられ，それぞれの個体は親和的交渉である毛づくろいを，個体間の緊張緩和 のために用いている可能性がある.