小鳥のさえずり学習の神経機構：大脳基底核経路と強化学習モデル

摘要

鳴禽と呼ばれる小鳥類は，言語を学習する人間と同様, 「さえずり」という複雑な音声パターンを他個体からの模倣 により発達させる。彼らは，あらかじめ耳で聞いて記憶し た手本のさえずりの音声パターンに自分自身の音声を一致 させるという高度な感覚運動学習を通して，手本とよく似 たさえずりを獲得する。このさえずりの感覚運動学習には，Anterior Forebrain Pathway (AFP)と呼ばれる神経経路 が中心的な役割を果たしており，近年その機能の解析にと もない鳥がさえずりを上達させるメカ二ズムが急速に明ら かになつてきている。本稿では，筆者らの研究を含めた AFPに関する最近の研究を概説し，さえずり学習の神経機 構および行動戦略に関する最新の動向を紹介する。また AFPは，大脳皮質一大脳基底核ル―プと呼ばれる，哺乳類 の脳にも存在する神経経路の一部がさえずり学習に特化し たものであることから，同ル一プ経路の複雑な機能を理解 する上での非常に良いモデルになると最近言われている。 そこで，哺乳類の同ル一プ経路の機能に重要な示唆を与え る鳴禽AFPの最近の硏究を紹介し，今後鳴禽AFPの硏究 が大脳基底核の機能の解明において果たし得る役割と課題 についても論ずる。、