精子幹細胞のバイオロジー：新しい遺伝子改変動物作成法と再生医療への可能性

摘要

精子幹細胞は精子形成の源になる幹細胞である．この細胞は体の中で唯一個体の遺伝情報を子孫に伝える幹細胞である．精子幹細胞の研究は従来形態学的なものにとどまっていたが，1994年に米国ペンシルバニア大学のプリンスタ一博士が精子幹細胞移植法を報告したことにより，急速に進んだ1）．この方法はドナー由来の精子幹細胞を別個体のホスト精巣（精細管）へと移植することにより，ドナー由来の精子幹細胞が生者し，精子形成を行い，メスと交配することにより最終的にはドナー由来の子孫をホストの雄から得ることができるというものである．この方法はちょうど骨髄移植と同じことが精巣の幹細胞でもできるということを示す点で画期的なものであった．この方法の確立によりこれまでは同定が難しかった幹細胞を移植により機能的にアッセイすることが可能になったのみならず，メス由来の卵?胚によらない新しい生殖工學の可能性も切り開いたのである．