海藻標本採集者列伝(20)鳥羽源藏(1872-1946)

摘要

2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震に伴い発生した平成三陸津波は，沿岸の市町村に甚大な被害をもたらし，そのなかには海藻標本を収蔵した博物館施設も含まれていた。岩手県の陸前高田市立博物館（以下，陸高博）と山田町立鯨と海の科学館である~(1,2))。後者については被災した海藻標本が約8万点と量が多く，しかも寄贈元の東邦大学（千葉県船橋市）からの輸送と搬入が完了したのが津波が襲来する1週間前のことであったため，震災発生直後より被災情報が入った~(2))。その一方で，陸高博の海藻標本は330点ほどと少なく，陸上植物の標本約1万5千点のなかにまぎれていたために，しばらくのあいだその存在が認識されていなかった。陸高博の標本レスキューの中心を担った岩手県立博物館(以下，岩博)の呼びかけに応じ，筑波実験植物園内の作業場で修復作業を行っているさなかに顕花植物標本の束の中から姿を現したのである（下の写真)。それらの海藻標本は，明治から昭和初期の岩手県において活躍した博物学, 鳥羽源藏(65歳のころ。陸前高田市立博物館のご厚意による）